大規模改修にかかる費用の会計処理の方法は「資本的支出」と「修繕費」の2通りあり、どちらに分類されるかは、工事内容や費用などによって異なります。修繕費とみなされれば経費として計上することができるため、どのような仕組みなのかを理解しておくことが大切です。
このページでは、「資本的支出」と「修繕費」の違いと判断基準、それぞれに必要な手続きについて説明いたします。
大規模改修の費用は、「資本的支出」と「修繕費」のいずれかに分類されます。どちらに該当するかで、減価償却が必要なのか?経費として計上できるのか?が変わってきます。
資本的支出に該当するのは、今まで建物には無かったものを後から取り付ける工事や改修工事によって建物の価値が上がったり、耐久性が向上した場合などです。
例えば、次のような工事は資本的支出となります。
・屋上の防水工事
・耐震補強工事
・外壁に断熱材を追加
・増改築工事
・バリアフリー工事
・10万円以上の照明や冷暖房設備などの新設
資本的支出とみなされる場合は、経費として一括計上できず、建物の耐用年数に応じて減価償却を行い、数年にわけて計上していく必要があります。
修繕費に該当するのは、建物の維持や管理、破損した部分を元の状態の戻す原状回復ための工事です。例として、次のような工事は修繕費となります。
・外壁塗装
・屋上の部分的な改修工事
・雨漏り修理
・電球の交換
・備品や設備の修理
・外壁のひび割れ補修
修繕費とみなされる場合は、工事を行った年の経費として、一括で計上することが可能です。前述したように、経費で処理できれば納める税金が少なくなり、手元に残るお金も多くなります。
まず、大規模改修で資本的支出と修繕費のどちらになるのかを判断する際の、基本的な定義は以下の通りです。
資本的支出:機能の向上、資産価値の向上を目的とした工事
修繕費:建物の維持・管理、原状回復を目的とした工事
しかし、判断が難しいケースもあります。明確に判断できない場合は、次の①~⑤の流れで判断していきます。
■ ①工事費用が20万円未満
20万円未満の工事は修繕費となります。20万以上は②へ進みます。
■ ②3年に1度程度の修繕工事
3年に1度程度の修繕工事は修繕費となります。該当しない場合は③へ進みます。
■ ③維持管理や原状回復が目的である
明らかに維持管理や原状回復が目的の工事は修繕費、資産価値や性能の向上を目的としている工事は資本的支出となります。判断ができない場合は③へ進みます。
■ ④工事費用が60万円未満
費用が60万円未満の工事は、修繕費となります。60万円以上の場合は⑤へ進みます。
■ ⑤工事費用が前期末取得価額に対して10%以下である
前期末取得価額とは、工事を行う建物を購入したときの価格と前年度までの資本的支出の額を足した数字のことを指します。工事にかかる費用が前期末取得価額の10%以下であれば、修繕費となります。
ここまで確認して修繕費に該当しない場合は、資本的支出として処理することになります。
ただし、法人においては⑤まで確認しても判断がつかない場合、下記のような特例が認められています。
・「工事費用の30%」または「前期末取得価額の10%以下」いずれか少ない金額を修繕費として計上できる
資本的支出で会計処理する場合は、減価償却を行いましょう。
減価償却とは、建物の法定耐用年数に応じて、数年かけて経費として計上していく方法のことです。修繕費のように一括計上はできませんが、分割で経費に計上できるため、結果として節税に繋がります。
減価償却費(1年で経費として計上できる金額)は、「支出額(工事費用)×償却率」で求めます。
償却率は建物の法定耐用年数によって変わり、これらは国税庁によって定められています。住宅用として使用している場合の、建物別の法定耐用年数と償却率は次の通りです。
木造:耐用年数22年、償却率0.046
木骨モルタル造:耐用年数20年、償却率0.050
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造:耐用年数47年、償却率0.022
実際に減価償却費を計算した場合、例えば鉄骨鉄筋コンクリート造で1,000万円の改修工事を行ったときの数式は「1,000万円×0.022=22万円」となるため、毎年22万円ずつ経費として計上できるということになります。
修繕費とみなされる場合は、確定申告の際に経費として計上します。
確定申告とは、1月1日~12月31日までに得た収入と経費を税務署に申告し、収入から経費を差し引いた利益額に応じて税金を納める制度のことです。マンション・アパート経営を行っている場合、基本的には確定申告が必要となります。
確定申告を行う際は、できるだけ多くの経費を計上することで納税額も少なくなるため、大規模改修の費用も経費として処理できれば節税対策にも繋がります。
確定申告をする際の大まかな流れは、以下の通りです。
確定申告をする際は、主に次のような書類が必要となります。
・申告書類
・不動産売買契約書
・譲渡対価証明書
・売渡精算書
・賃貸借契約書
・家賃送金明細書
申告書類は税務署の窓口で貰うか、郵送で送ってもらいます。また、国税庁のサイトでは「e-Tax」というサービスも提供しており、インターネット上で申請書類の作成から提出まで行うことも可能です。
その他の書類に関しては、それぞれ不動産会社や管理会社が発行してくれますので、事前に確認しておきましょう。
経費に関する書類とは、ローンの支払明細書や各種税金の納付書、交通費や交際などの明細書などのことです。経費として計上する場合は、費用を支払った際の明細書をしっかりと保管しておくようにしましょう。
申告書類の提出方法は、税務署の窓口に提出もしくは郵送になります。また、e-Taxを利用している場合は、インターネットで種類の提出まで対応しています。
手続きに不安がある人は、直接窓口に提出するのがいいでしょう。その場でわからない点を相談したり、不備がないか確認してもらえるので、後から税務署に呼ばれて修正する手間も省けます。
大規模改修の費用は、「資本的支出」と「修繕費」の2種類に分類され、性能や価値の向上を目的とする工事は資本的支出、原状回復を目的とする工事は修繕費に該当します。
修繕費で会計処理を行う場合は経費として一括で計上できますが、資本的支出の場合は基本的に減価償却を行い、分割で経費に計上する方法となります。
一括で経費として計上できればその分節税にも繋がりますが、やはり入居率アップを実現させるためには外装や設備のアップグレードも必要となってくるので、計画的に改修工事を進めていくことが大切です。